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「建築の旅」17

2022.12.13建築の旅

こんにちは。今回からスウェーデンです。
ストックホルム港の夜景がなんと美しいことか!
まずはその港の入り口に建つ、エストベリ設計の市庁舎から見ていきましょう。
1923年の完成で、モダニズム以前の北欧ロマンチシズム建築の名作といわれています。
建築家仲間では村野藤吾が大好きだったことで知られていますが、一般的にはノーベル賞の晩餐会が行われる場所として有名な建築です。
広い中庭を取り囲む配置となっていて、水辺に面した部分がポーティコになっています。
晩餐会が行われるブルーホール。
当初の計画では壁を青く塗る予定でしたが、レンガがあまりに美しかったためそのままにしたとのこと。
確かに細かい装飾まで作り込まれていて、塗り込んでしまうのは勿体ない職人仕事です。青く塗られなくてよかった。
プレモダンの建築はこういうところに味があっていいですよね。
議場まえの廊下です。
プレモダン建築のパブリックスペースはいわゆるヒューマンスケールではなく、人知を超えたスケールを感じさせてくれるところがいいですよね。
議場の天井です。
バイキング船の竜骨を思わせる見事な造作でした。

オーバルホールと呼ばれる部屋の内観。壁面はすべて古いタペストリーで装飾されています。




エストベリも素晴らしいですが、スウェーデンの建築家といえば、何といってもグンナー・アスプルンドでしょう。
まずはストックホルム私立図書館を見に行きます。
竣工は1928年。近代建築の黎明期ですが、外観は古典的です。
左右対称のファサードの正面中央から入ります。古代遺跡のようです。
入ると正面にまっすぐ上がる階段があり...
それを登っていくと...


あの中央閲覧室のほぼ真ん中に上がって来ます。

そこには三層にわたり書架がめぐらされていて、個人のスケールをはるかに超える膨大な人智が集積されていることが一目でわかります。そしてその上部にはさらに高く大きな吹き抜けがあり、その人智さえ及ばない壮大な世界が私たち人間を包み込んでいることを示しています。
この空間は機能主義的にみれば無駄なようにも見えますが、この空間には人を謙虚にするという大切な役割があるように思えます。

ここを訪れた人はこの空間に入った瞬間に心が洗われて、自分も頑張って勉学に励まなくてはという気持ちになりますよね。
そして科学技術や文明がいくら発達したところで、宇宙や大自然や地球の歴史に比べたら人がいかに小さな存在であるか、またそれゆえに探求を怠ってはいけない、ということを直感的に教えてくれているように思うのです。

アスプルンドの建築が素晴らしいのは、その場所をひとが必要とする哲学的本質を、空間の力だけで指し示し得ていることでしょう。それが歴史主義にも機能主義にも頼るものでないがゆえに、より直接的に心の奥底に響き、いつの時代になっても変わらぬ普遍性を獲得している理由なのではないかと思います。

書架の照明ディテール。
下から見て光源が目に入らぬように、幕板がつけられていました。

円形の中央閲覧室を取り囲む外周部の閲覧室。
オリジナルの照明器具がきれいでした。

手洗いのシンク。
蛇口が人型の彫刻になっていました。ディテールが手作りでデザインが具象的なところが、プレモダン建築と近代建築との決定的な違いですね。


では次回はアスプルンドの遺作、森の葬祭場を訪れます。

お楽しみに!
(横内)