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瓦屋根の可能性

2020.04.01萌蘖(鹿児島)

前回の更新よりかなり時間が経ってしまいましたが、鹿児島の物件「萌蘖(ほうげつ)」の現場の様子をお伝えします。

既に竣工写真がHPに掲載されていますので、是非ご覧下さい。
前回の更新では上棟式の様子までお伝えしていました。
次はいよいよ瓦を葺いていきます。

今回のプロジェクトでは、日本の文化、鹿児島の文化を現代の形に落し込んでいくことをテーマとして設計に取り組んできました。
そのテーマの中で、ただ単にノスタルジア的なことで瓦を採用するのではなく、客観的な側面から瓦屋根の優位性を具体的に証明していこうという取り組みを行っています。
まず、鹿児島の夏の暑さを和らげるために、野地板と瓦の間の空気を棟に設けた通気口から抜くことにより、野地板に熱が伝わりにくくすることを考えました。
一般的には瓦を引っ掛けるために横桟のみで施工をしますが、今回は横桟の下にタテ桟を打つことで空気層の厚みを増し、軒先のすずめ口の下に通気の入り口を設けて空気の通りを良くしています。
またそのタテ桟の通気層は、瓦下に流入した桜島の火山灰の出口となります。
また台風の風が入り込み、瓦を吹き上げる恐れがあるため、防風用の立ち上がりを設けました。



 今回の収まりがどの程度の効果があるのか可視化するために、着工より前に鹿児島大学の鷹野敦先生と鷹野研究室の皆さんにご協力頂き、モニターをして頂きました。
鹿児島大学の校舎の屋上に6つの異なる仕様の屋根の試験体を原寸で作り、真夏の炎天下で約1ヶ月間それらの温熱状況を比較しました。野地板上や、屋根表面など各部位に温度計を仕込みデータを収集しています。
それによると今回の仕様では、野地板の温度が金属板葺きの屋根の野地板より5℃ほど下がることが分かりました。
これにより瓦屋根の方が夏涼しくなり、当地の風土に適しているという利点を立証できました。




瓦葺きの屋根は地震や台風で棟が壊れている様子をよく目にしますが、その問題に対しては、棟木上部に両側の垂木小口ではさむ形の力板を設け、それを下地として棟を積み、
頂部の素丸瓦は天端からこの力板にビス止めして、棟全体を補強する工夫をしています。
また棟の意匠は屋根の印象を大きく左右するので、高さも抑え、鬼瓦もシンプルなものにして現代的に見えるように工夫しています。




田舎の集落や、京都の一部の街並みを見る中で、瓦屋根が連続する風景に美しさを感じる時があります。
今は金属屋根の家がほとんどですが、今回のような取り組みが瓦屋根を見直すきっかけとなり、美しい日本の風景が作られていけば良いなと思います。

スタッフ 渡邉