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「建築の旅」4

2022.10.14建築の旅

こんにちは。

今回はニューヘブンにあるイェール大学の建築群を紹介します。まずはポール ルドルフの建築から。
ポールルドルフは、ミース、コルビュジエ、ライトなど近代建築の第一世代の後に続くいわゆる第二世代と呼ばれる建築家たちの1人で、独特なダイナミックで造形的な作風により60年代の建築界を一世風靡したアメリカの建築家です。
当時は日本でも人気が高く、特に彼のドローイングは学生が(特に早稲田の)よく真似をしたものでした。


ルドルフは60年代に名門イェール大学建築学科の主任教授を務めていたことから、大学内とその周辺に多くの作品を残してます。
これは初期の作で、大学の学生寮です。
イタリアの山岳都市をヒントにデザインされていて、スケール感がヒューマンで空間に変化があり、佳作だと思います。
これは前回も登場したイェール大学建築学科の校舎です。
外観は造形的で彫りが深く、内部空間も変化に富んでいます。変化をつけるために5階建てのなかに20数個の異なるフロアレベルがあり、光も変化がありすぎて、竣工当初からスタジオとして使いにくいと学生からは不評でした。あまりの使いにくさに、学生が建物に放火してしまうという事件もあったくらいです。


これは大学の近くにある、ルドルフが設計した高齢者のための集合住宅(1965)。外壁は丸いリブがついたコンクリートの打ち放しで、陰影を付けるためにルドルフがよく用いた手法です。
前の建築学科校舎はリブを両側からはつって石器の刃のように尖らせて、もっとシャープに影が出るようにしていますが、これもからだが当たると怪我をすると利用者には不評でした。


これはニューヘブン郊外にある低層集合住宅。
建設コストを下げるために単位空間をトレーラーに乗るサイズでユニット化し、工場で大量に作ったユニットをトレーラーで運び、現場で積み上げるだけという独自の工法によるもの。ユニットの組み合わせでさまざまなプランのバリエーションが作れ、ルドルフの代表作の一つとして紹介されていたので、Googleもない時代に苦労して場所を調べて訪ねたところ...
なんと廃墟になってました!
竣工してから10数年しか建っていないはずなので驚きました。
地元の人に聞いたところ、元は低所得者向けの集合住宅だったようですが、雨漏りがひどく、断熱が不十分で冬寒かったことに住人が怒って暴動を起こし、配管や断熱材を売るために建物を壊してしまったとのことでした。
ルドルフは建築が勝ちすぎていて建物としては不評なことが多い建築家なのでしょうか。そのバランスの大切さと、近代建築の脆弱性について考えさせられた旅でした。





つぎはエーロ・サーリネンです。

サーリネンも第二世代の建築家ですが、ルドルフのようにすべて自分のスタイルに引きずり込むような強引さはなく、周辺環境やプログラムや要望に合わせで建物ごとにコンセプトと表現手法を変える柔軟な設計姿勢が好きな建築家です。
まずはイェール大学のアイスホッケーリンクから。
丹下さんが代々木を設計したとき参考にしたと言われていますが、規模はずっと小さい建築です。サーリネンの曲線は立体的で美しいですね。





次はイェール大学の学生寮。
これもサーリネンですが、スタイルは全く違います。
ネオゴシック様式の既存キャンパスに雰囲気を合わせているのですが、安易に様式を装飾的に取って付けるようなことはせず、ヒューマンなスケール感と外壁の質感のみを踏襲することで、調和と新たな魅力の両方をつくり出しています。プランはとても有機的で、各室のかたちをすべて変えることで、学生一人一人の個性の違いを表現しています。中央の通り抜け通路は、中世都市の街路のように少しうねっていてとても素敵でした。ちなみに外壁は割り肌の石を着色したコンクリートに打ち込んだもので、ライトがタリアセンウェストで用いたものと同じようなものだと思いますが、よくわかりません。


最後にロバート・ヴェンチューリが設計した消防署。
彼はルドルフやサーリネンより後のいわゆるポストモダン世代の建築家で、70年代に活躍しました。この建物もニューヘブンにあります。
ヴェンチューリはルドルフなどの第二世代が過度な造形で建築のモニュメンタリティを獲得しようとする姿勢を批判し、普通の建物の表層を面白く操作することで、余分なコストをかけず、一般の利用者とっても分かりやすい建築のあり方を求めました。

彼の近代建築の問題点を批判する主張は、70年代に大学生だったポスト学生運動の世代には大きな影響がありました。私もその1人だったので、彼の作品に会うのを楽しみにして見に行ったのですが、実際に見てみると、実は少し落胆しました。それはルドルフの集合住宅で感じたのと同種の近代建築の脆弱さをこの建物からも感じてしまったからでした。
彼はやはり作家としてよりも建築の思想家として評価すべきでしょう。なぜならもし私が一番影響を受けた著作は何かと問われたら、迷いなくロバート・ヴェンチューリの「建築の複合と対立」と答えるからです。長くなるので内容には触れせんが、今読み直しても深い示唆に富んだ本です。

私の時代には松下一之氏が訳した本しかなくて難解でしたが、今は伊藤公文氏が分かりやすく訳し直して「建築の多様性と対立性」というタイトルで鹿島出版から出版されています。特に第二章は短いですが、彼の考えの全てが凝縮されていますので、興味がある方はぜひお読みください。
それでは、また来週。

(横内)