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「建築の旅」21

2023.01.13建築の旅

こんにちは。

今回はアルヴァ・アアルトの建築を見て回ります。
と言ってもヘルシンキにあるものだけで、初期の名作であるセイナッツァロの町役場や夏の家などは見ていません。悪しからず。

まずは彼のアトリエから。

このアトリエは1955年、彼が57歳の時に建てられたものです。
円弧を描く外壁により、野外劇場のようなオープンスペースが切り取られていて、オフィスが単なる働くためだけの場所でないことを示しています。白い外壁や野外劇場のような構成など、彼が若い時に旅したギリシャの古代遺跡の影響を感じる建築でした。
製図室の内部。
ハイサイドから入る光がとても柔らかく美しいと思いました。
野外劇場を囲む円弧の壁の内側の空間。
私が訪れた30年前はオフィスとしては使われておらず、アアルト財団が管理していて、少し雑然としていました。
外壁の痛みもあり、残念な感じ。
アスプルンドを見た後だっただけに、収まりや作りが雑に見えてしまい、正直あまり心が動きませんでした。
同じ北欧でも、アスプルンドは戦前、手仕事、プレモダンの建築家で、アアルトは戦後、工業化、モダニズムの建築家という大きな違いがあると感じました。



次はヘルシンキ中心部にある、アカデミア書店です。
この建築の魅力はなんといってもこのトップライトでしょう。それ自体がガラス張りの部屋みたいになっているのは断熱性を確保するためでしょうが、天井に開けられた穴の形も不思議ですし、その穴とは縁を切るように上部からすぼむように垂れ下がっているガラスケースがなんとも魅力的です。
まるでクレパスに大きな氷のかたまりがはまり込んで、そこからの光をクレバスの底から見上げているような、冬が厳しい国ならではの、見事な光と造形だと思いました。
アアルトの建築には不思議なロマンがありますよね。



最後に、アアルト晩年の代表作で、1971年に竣工したフィンランディアホールです。
水平な氷の大地に毅然として建つような姿はみごとでした。
外壁はすべて白い大理石張りで、表面には波打つような表情があったのですが...

近づいてよく見てみると、なんと、外壁の大理石が反り返ってしまっているのでした!
後で調べると、酸性雨の影響で表面が溶けて反ってしまい、近々大規模な改修工事がが行われるとのことでした。
完成してまだ20年しか経っていません。アアルトの建築の脆弱さを感じてしまいました。
しかしこれはアアルトにかぎらず、近代建築に共通する本質ではないかと思います。
工業化社会の新しい建築は、発展しているように見えますが、実は質が低下していると考える方が自然なのではないでしょうか。
裏側は全く別の表情があり、大規模な建築にヒューマンなスケール感を与えています。
照明器具や手摺はしっかりデザインされ、作り込まれてました。


アアルトのデザインの背景には、フィンランドの厳しくも美しい自然が作り出した造形があると思います。それらがインスピレーションの源泉となり、建築に限らず、プロダクトやインテリアや工芸品においても素晴らしい作品が生み出せたのではないかと思います。
最後に、私が好きな北欧の作家たちの作品をお見せします。
タピオ・ウィッカラーでしょうか。

ティモ・サッパネバ。
ミッドセンチュリーの北欧デザインは野生と素朴さが洗練された繊細さの中に同居していて、ほんとに素敵ですね。

私の建築家としてのキャリアに大きな影響を与えた北欧の旅はここで終わりです。

次回からはイタリアに西洋の古建築の歴史を学びに行きます。
お楽しみに。

(横内)