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T邸お引き渡し

2023.08.02T邸(京都市北区)

T邸のお引き渡しをしてきました。
…とはいえ、こちらはT邸ではありません。
少し寄り道をさせてください。
京都、八瀬比叡山のふもとにある蓮華寺には、
静かな水面を湛えた深い森のような庭があります。



参拝者は庭と対峙したとき、どこからともなく滝の音を聞きます。
滝はこちら側からは見えず、お坊さんからは滝の先に浄土があると教えられます。

参拝者は半眼して瞑想する中で、滝の音に集中しながら見えない滝を想像します。
縁側より先は浄土へ向かう世界。そこには水先案内人の苔むした鶴と亀がいます。
自分の意識を彼らに載せて、石灯篭が導く先、石橋を越えた先についに滝を見つけるそうです。
これは大昔の人々が生み出したある種の舞台装置と言えそうですが、
想像力を掻き立てられて、豊かな気持ちになれるように思います。

豊かさを感じる空間の背景にはこういった効果があり、
それに誘導するための造園や建築のさまざまな形があるように思います。
そう思うと京都にはものすごい技術や文化の蓄積を感じます。





…さて前置きが長くなってしまいましたが、
そんな想像力を駆使しながら、京都T邸を巡りたいと思います。


古い門屋をくぐると玄関へのアプローチです。
両側に覆いかぶさるような緑の先に玄関扉が見えます。



少し進むと樹木の合間に建物の様子がうかがえます。
そのままアプローチを進み、建物に入ります…



建物側から緑を眺めています。
軒を深く低く出して、庭の緑に集中する眺めになっています。
また先ほどのアプローチを振り返るような視点ですが、
アプローチの気配は庭木に隠れてしまって、深い森の中にいるようです。
窓辺のソファーコーナー。
スピーカーからは静かな音楽が流れています。
リビングダイニングはT様がお持ちの家具でしつらえました。
現しの屋根構造やシンプルな平面はのびのびとした印象を感じさせます。
ミッドセンチュリー調のインテリアともマッチして、空間全体で経年変化を楽しんでいけそうです。




ウッドデッキから庭に出て建物を眺めます。
大開口部はあけ放つと庭とリニアにつながります。
庭先で皆様でぱしゃり。
T邸の施工は京都の松彦建設さん。
初めてのお仕事でしたが、素敵な建物に仕上げていただきました。
社長の松本さん、監督の横井川さんに感謝しています。




日が暮れて明かりがともると、一層雰囲気が増しますね!
T様のお母さまは、このような形でご自身が育った家に帰れたことを大変喜んでおられました。

私も古びた大時計が再び動き出したような深くて大きな感動を味わうことができました。
このような設計の機会をいただいて、T様にはすごく感謝しています。
ぜひ、もっともっと滋味深い豊かな住まいにしていただきたいです。




秋吉