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写真家・小川重雄さんの足跡1

2025.09.18 プライベートアルバム

写真家・小川重雄さんが今年の6月「懸造と山岳」という写真集を出しました。以前からこの本の内容を聞いていた私は出版前の5月に九州の現場監理にあわせて、被写体の1つとなった場所に行ってきました。


大分県宇佐市にある龍岩寺。


細く険しい道を登っていくとようやく岩窟を背負った奥の院が見えてきます。


まるで大きな龍の口にのみ込まれそうな奥院礼堂。


中に入ると圧巻の三体の仏像。暗闇の中から見上げる白木の三尊仏は岩からの反射光で浮かび上がり静かに私を見下します。


礼堂の4分の3程には人の手により屋根が掛けられ、そこから奥は岩山が屋根となっています。神の領域であった山、立ち入ること、そして建築することが難しい岩窟に人々の信仰の念が宿っています。


岩窟の奥からの見返し。鳥取の投入堂と違いここは自由に入ることが出来るので思う存分に人と自然の造った空間を体験することが出来ました。


礼堂を去るとき、仏像の頭が見えていることに気づきました。恐れながら申し上げますと、なんか少し可愛いです。岩窟の高さ、建築の納まり、一木の大きさ、礼堂から見上げ、色んなことが考えられて3mの高さの仏像が彫られたのでしょうか。



あらためて岩肌と建築に接近
無駄なものがない木造の架構って美しいですね。ところで、斜めにかかっている一本の大木の表には刻みが入れてあります。この「きざはし」は昔は参道として使われていました。私がアプローチした右側の渡りや、ましてや手摺なんて昔はなかったのです。険しい山道を登り、さらに一歩間違えば崖へと転落するきざはしを伝って人々は礼堂へと向かっていました。


大分県の山深い場所に龍岩寺は静かに岩窟に守られて佇んでいました。


誰も参拝者がいなかったので実測も出来たのですが、小川さんの図録で答え合わせをすると少しづつ寸法が違ったり、プロポーションが違ったり。まだまだ研鑽しなければなりませんね。


圧巻の龍岩寺の姿は小川さんの写真集で見ることが出来ます。小川さんが全国津々浦々、懸造りを巡って撮影した「懸造と山岳」。どの懸造も小川さんのフィルターをとおして迫力があり、かつ神々しくおさめられています。お勧めの一冊です。

次は福知山市の天岩戸神社に小川さんの足跡を訪ねます。お楽しみに。



追伸
龍岩寺に向かう途中、中津市にある「風の丘葬祭場」に立ち寄りました。故・槙文彦さんの設計です。弔いと祈り、見送りのシークエンスがとても上手くできている建築だと感じましたし、ランドスケープと建築が共に場を高めあっている手法も秀逸でした。幾何学的な平面図では解らない感覚を身体スールで体感することができました。



スタッフ・上野